八せん始め、河童忌 (旧暦 水無月二日)

 『デロリンマン 1970・黒船編』
 『デロリンマン 1970・黒船編』
  ジョージ秋山/復刊ドットコム


「幻の」だの「カルト」だの「傑作」だのと言われ続けてきた作品が、ようやく刊行されました(先月のことですが)。

 読んでみて、結論から言いますと、そこまでたいした作品ではなかったです。
 この手の悲劇的ストーリとしては、当時の漫画界のレベルで見ても手塚、石森、横山には遠く及ばず。もっとも、ジョージ秋山さんはSFの人ではないので、そこまで望んではいけないでしょう。

 では、なぜこの作品が「幻の」「傑作」とまで言われたのか。
 それは、一連の『デロリンマン』作品の中、この「黒船編」のみ一度として単行本化されなかったからに他なりません。何せ、1970年掲載ということで、かれこれ 47年前。当時の雑誌を探すしか読む方法がないのですから「幻の」という表現は至極正しいのです。
 妖之佑の主観ですが、当時の少年ジャンプは単行本化に消極的だったように思えます。て言うか、今のように連載作品がほぼ例外なくコミック本化される状況からは、当時の業界全体がほど遠かった、と言うべきですか。
 同じジャンプで、ほぼ同時期に連載されたSF傑作の『ワースト』も単行本化に恵まれず、確か後に朝日ソノラマサンコミックスから出たと思います。サンコミックスってのは、当時の単行本化にあぶれた作品たちにとっての駆け込み寺だったのかな。『デロリンマン』のジャンプ連載版も、ここだったし。かの『鉄腕アトム』も、ここから全21+1巻が出ていた記憶があります。『ゲゲゲの鬼太郎』も、ここが出してたはず。青年誌で連載していた『元祖大四畳半大物語』も、ここからの刊行だった。もうね、サンコミックスは元の掲載誌がバラバラでしたよ(笑)。

 閑話休題

 この本に載っている解説によって、今まで曖昧だった点が明確になりました。
 整理しますと。
デロリンマン』が連載されたのは、まず少年ジャンプ。それが終了して四年後に少年マガジンで物語をリセットしての仕切り直し連載。そして平成になって伝説マガジンで、昭和とは別人のデロリンマンを主役に据えて連載開始するも、雑誌そのものが休刊となり全三話で打ち切り頓挫状態(苦笑)。
 あれこれと微妙すぎる平成版は、この際、脇に置いときまして。(;^_^A
 マガジン版は講談社コミック(KC)『デロリンマン』全二巻に全話収録。
 一方のジャンプ版は「黒船編」のみならず、それ以外の話も割愛されてサンコミックス『元祖デロリンマン』全二巻に収録。強引に終わらせるため「紅トカゲ編」の途中で唐突な「END」ページを加筆させてまで話数カットしたのは、当時のコミック本に対する編集の姿勢が見え隠れしていて正直、不愉快。
 ちなみに、実質的復刻本として出てきた、さくらコミックス愛蔵版も、このサンコミックスに準拠している。というか、さくら出版が雑誌連載構成を無視してサンコミックスの構成を丸写ししたものと推測。
 さくらコミックス愛蔵版および徳間コミック文庫は、ジャンプ版だけでなくマガジン版の収録も不完全な尻切れ状態。編集はどいつもこいつも読者をナメてやがる(怒)。

 けっきょくのところ、当時の出版状況の中で「黒船編」は、特に意味もなくたまたま単行本化の機会に恵まれなかっただけ。それが、一人歩きして伝説化してしまったのだと思われます。
 確かに、それまでの流れから一転、衝撃的展開を経て完結しましたから、リアルタイムの読者はそれなりにショックを受けたでしょう。その人たちが大人になって語ったことを聞いた人、又聞きした人、それぞれの頭の中でどんどん理想像が成長していった。それが「黒船編」を「幻のカルト傑作」にまで昇格させた。
 希少性そのものが価値を生む典型だと思います。

 まあ、今回の刊行で「黒船編」も気軽に読めるようになり、ようやく正しい評価を受けられることになるわけで。
 健全化のためにも、歪な希少性などあってはならないということに尽きますね。

 内容について多くを語るのもアレです。
 興味のあるかたは、ぜひ読んでください。偉そうに言いましたが、当時のレベルで言えば、まちがいなく良作です。ただ、「SFか?」と問われると疑問ですが、そこはほら、「黒船」と銘打ってあるとおり、SFに姿を借りた“昭和維新”の物語と解釈すればいいのです。登場人物たちは幕末偉人たちの名を名乗ってますし、黒船に乗ってきたのはペルリ星人ですし。
 徳川の世を終わらせた黒船は合衆国からの使者だったが、1970年に日本に飛来した黒船は社会主義国家からの使者だった。この違いが運命の分かれ道ということに尽きます。
 とにかく、それまでゴミ扱いだったデロリンマンが「ついに自分の出番が来た」とばかりに生き生きと活躍してますよ♪

 それと。
 ジョージ秋山さんは佐藤総理が嫌いだったんだなぁ、と思いましたね。
 そう言えば、赤塚不二夫さんも佐藤総理を批判してたんだっけ。

 ついでに。
 70年安保での佐藤総理と、60年安保での岸総理とも、自分に批判的な集団を機動隊という武力で弾圧した。戦後の総理大臣で武力による思想弾圧をしたのは、この二人だけ。
 で、その二人と血の繋がった極右総理が誰かは言わずとも判ろう。

 これを機に、マガジン版や「黒船編」以外のジャンプ版も完全収録で再販・復刊してほしいですね。
 復刊ドットコムさんでも講談社さんでも集英社さんでも、どこでもいいからサー。