(旧暦 卯月十三日)

 『デロリンマン』
 『デロリンマン』全3巻
  ジョージ秋山/さくら出版


 何と言うか。「捉えどころのない正体不明な漫画家さん」という印象を、ジョージ秋山さんには抱いてます。
 作風の幅が広いのは、この頃の著名漫画家さん全般に言えることですし。絵柄については、手塚、石ノ森などの巨頭よりも安定感があります。ブレません。
 でも、何なんだろうな。ひょっとすると例えば、つげ義春さんよりも正体不明なんじゃないのかな。と思えるんですよね。
 世間一般的に、この人の代表作を挙げるならビッグコミックオリジナルに連載され続けている『浮浪雲』でしょうね。二度のドラマ化と、一度の劇場アニメ化もありますし。
 しかしながら妖之佑個人としては、秋山さんご本人の正体不明さが如実に反映されている、この『デロリンマン』こそが代表作だと思うのですよ。

デロリンマン」と名乗り、自らを「神」や「魂のふるさと」とする、いわゆる既知外が活躍する……と言うか活躍しそこなう物語。
 その醜い外見とは裏腹に、デロリンマンは愛と正義を貫こうとして、空回りしたり濡れ衣を着せられたり不当に虐げられたり。連載開始の頃は、キン肉マン最初期のようにシンプルな「ズッコケヒーロー」の面が強かったのですが、すぐに「報われない正義」や「拒絶される愛」を描いた悲哀の物語へと変化しました。以降は、不条理、差別、偏見などなど、とにかく厳しい試練が連続してデロリンマンを襲います。

 この『デロリンマン』は連載や単行本収録も少し異端でして。
 最初は少年ジャンプで連載。朝日ソノラマサンコミックスから『元祖デロリンマン』のタイトルで全二巻が発売。ただし最終章のみ未収録。
 ジャンプ終了後に少年マガジンで、一部の設定を変更した今で言う「パラレル」として仕切り直し。講談社コミック(KC)から全二巻の発売。
 後に復刻された単行本として、徳間コミック文庫と、さくら出版愛蔵版があるのですが。残念なことに、どちらも収録が不完全。ジャンプ版とマガジン版ともに尻切れ状態です(徳間は持ってませんが)。
 無論のこと、↑すべての単行本が現在は絶版です。
 2017年5月現在、マガジン版最終話を読むにはKCか当時の掲載誌しかありません。また、ジャンプ版最終章を読むには当時の掲載誌しかありません。どこまで行っても厄介な作品なのです(苦笑)。
 さらに、21世紀版とされる作品も三話あるそうです。これも当然のこと、単行本にはなっていません。



 さて。
 なぜに今さら『デロリンマン』に触れたかと申しますと。
 今まで一度も単行本収録されていなかったジャンプ版の最終章、俗に言う「黒船編」が、例の復刊ドットコムさんから発売されるからなのです! これは大事件ですよ!!
 おまけとして 21世紀版も収録されるんだとか。
 もう買うしかないじゃありませんか!!!!

 黒船編は、後の『ザ・ムーン』の元となったという意見もあるほどにSFタッチだそうですし。気になるかたは要チェックなのです。
 これが商業的にペイすれば、もしかするとマガジン版最終話の復刻もありえますから♪

 ちなみに、この本は原稿が行方不明のため、掲載誌から複写&修復での製本なのだそうで。
 秋山さんの原稿って、例の「さくら出版原稿流出事件」において、何かと芳しい有名中古本屋へ不正に売却されたうえ、ご本人が大金支払って買い戻したとかの噂がありましたよね。どこまでも不条理がつきまとう宿命の人なのかもしれません。