雛祭 (旧暦 如月六日)

 スイスの時計メーカー「Tissot(ティソ)」の腕時計に「ワールドタイム」という機械式の世界時計がある、ということは以前に日記に書きました。
 巷によくある(Tissot にもある)、その都度その都度、各都市名が記された回転ベゼルを指で回して現地の時刻確認をする、という簡易式ではなく、またコンピュータ制御のクォーツ式でもない。機械制御だけで世界二十四都市の現在時刻がひと目で判るというスグレモノです。

 構造を説明しますと(※ 書籍からの情報であり、妖之佑は直に触れていませんので、そこンところはご容赦をお願いします)。
 見た目は普通の三針式です。カレンダーは、ありません。少し違うのは、十二時間表記のインデックスが文字盤ではなく、風防外側の固定ベゼルに刻まれている点。通常の現在時刻は、この固定ベゼルのインデックスと三針で見ます。それと竜頭の少し上、いわゆる「二時の位置」にボタンが一つあることも外見上の特徴です。
 重要なのは文字盤です。◎という二重構造になっています。
 内側の円盤が短針に連動して回転します。ただし、短針が一日二周するのに対して、円盤は一日一回転、つまり二十四時間で一周します。これに世界二十四都市の名前がぐるりと記されている。つまり各都市の名前が二十四時間かけて一周するのです。
 一方、外側のドーナツ状の文字盤には二十四時間表記のインデックスがある。こちらは固定されていて動きません。

 ここまで書けば聡明なかたなら理解できてしまうのでしょうが、続けます。

 まずは針を通常の竜頭操作で回します。この際、円盤も一緒に回るので、そのまま目的の都市名(東京でも旅行先でもロンドンでも、とにかくメインに設定したい都市)が文字盤の「24」に来るまで進めます。
「24」に来たところで、二時の位置にあるボタンを押す。すると、円盤のみ竜頭の操作から解放されて停止します。
 ボタンから指を放しても円盤は止まったままなので、引き続き竜頭で針だけを回して、今度は短針を「24」の位置まで送ります。
 目的の都市名と短針(と、ついでに長針)が「24」の位置で重なったら竜頭を戻す、つまり押し込みます。これでボタンを押した状態が解除されます。この時点で、時計は目的都市の真夜中0時ちょうどを指している状態になります。
 次に、ふたたび竜頭を引いて回して針の操作をします。当然、針と円盤がシンクロして回転します。円盤にある目的の都市名の昼夜を文字盤の二十四時間表記で注意しつつ、長短針を固定ベゼルの十二時間表記で現在時刻に合わせます。
 で、竜頭を押し戻せば完了。あとは、いつでも針が時刻を指していると同時に、世界各都市の時刻も同時に文字盤でリアルタイム二十四時間表示されているって寸法になります。

 よくよく考えるとシンプルなシステム(まったくの素人想像ですが、カレンダー用のメカを流用したのかも)なのですが、まさに発想の勝利でしょうね。機械式で、これを越える世界時計は、ないと思います。機械式時計しかなかった頃、世界を相手にしたビジネスマンなどには重宝された品なのではないでしょうか。
 このワールドタイム、初出は 1950年代なのだそうで。その後、何度か復刻されていますが、とにかく数が少ないのと、価格が庶民には優しくないので、入手の機会はありませんでした(復刻版はボタン停止でなく、竜頭で円盤を単独操作できるらしい。ますますカレンダーのメカを使ってるっぽいな♪)。



 と、長々と書きましたが。
 ここまでは枕。



 我が日本の老舗時計メーカーの一つ、オリエント。
 ここはセイコー以上に機械式にこだわってくれている所なので、個人的に応援したいのです。

 そのオリエントで機械式世界時計を作っていると知ったのが、つい最近。
 いやー、いつ行っても公式サイトが見辛くて気づかなかったですよ(言い訳言い訳)。

「オリエントスター ワールドタイム」

 説明を読む限り、Tissot ワールドタイムの構造と同類ですね。短針に連動して都市名のリングが回転する。
 カレンダーとリザーブ(ゼンマイ残量)付きなのが、Tissot に対するアドバンテージか。
 ただ、秒針、カレンダー、リザーブをスモールにしたせいで文字盤に余白がなくなり、ために都市名を外周にしたのはデザイン的に失敗してますね。見た目にゴチャゴチャしていて、ひと目で判るとはいきそうにない。

 それでも国産ということが嬉しいです。価格も Tissot より安いですし。
 これは、できれば欲しいところですが、妖之佑の財布では無理です(きっぱり)。
 せめて、一人でも多くの人がこの時計に興味を持って買ってくれるとオリエントのために、ひいては日本製機械式時計のためになるので、こんな僻地ですが話題にするのでありました。

 オリエント頑張れー!