(旧暦 如月三日)

 『山怪』
 『山怪』『山怪 弐』
  田中康弘/山と渓谷社

 タイトルからご想像のとおり、山の怪談集とでも言うべき本です。正確には体験談集ですが。
 この手の編纂本というと、古くは柳田國男さん、そして松谷みよ子さんや水木しげるさん、といったあたりが有名ですね。
 集めた体験談に学者としての考証を加えた柳田翁。創作者の本能ゆえ無自覚に想像と創作を混ぜてしまう水木先生。このご両名に対して、創作者でありながらも淡々と体験談を収録することに徹した松谷女史。
 この本『山怪』は、松谷さんの姿勢に近いものです。山で暮らす人々の体験談を、そのまま収録してある。余計な演出がない分、むしろ畏怖を助長しているのです。
 ぶっちゃけ、自宅で読む分には、そこまでではないのですが。少し想像力を働かせて古びた山の宿、あるいは山小屋あたりで、しかも夜に読んだと思いねぇ。もう一人でトイレにゃ行けねぇです。
 著者が不可思議系の研究者とかでなく、山の生活、特にマタギをテーマとするライター兼カメラマンであること。そして版元も怪奇とは縁のなさげな、山と渓谷社であること。これも、かえって怖さを加速させてくれます。
 山には人智の及ばぬ何かがいる、それもいっぱいいるんですよ。

 生活面の問題(主に経済的なこととインフラ)が解決するのなら山奥に引きこもりたいと常々思っている妖之佑ですが。
 この本を読んでしまうと躊躇しますね。山奥はやめて山里にするか? (;^_^A