小田原道了尊大祭 (旧暦 師走十八日)

 お正月とお盆の恒例、NHK-FM 名番組『クロスオーバーイレブン』特番。
 2016年の正月版は小沢章友さんによる『遊民爺さん』の、何と新作スクリプトでした。

 新作なのでワクワクしましたが……うーん、ちょいと拍子抜けかな。

 それまでの「ぼく」(哲郎くん)ではなく、「団塊の世代」な「わたし」が語り部になってましたね。
 と言うか、主人公がまさにその「わたし」であり、遊民爺さんは「わたし」が動くきっかけにすぎなかった。例えるなら『ブラック・ジャック』での実質的主人公がBJではなく患者のほう、というあの図式です。

 て言うか、本編中にも台詞が出てましたが。
 遊民爺さんがあちこちの美術館等々に出没していたのは昭和の終わり頃。そのときに七十いってたはずですから、平成の今はもう百に届いていることになります!
 その計算をそのまま劇中でやっちまってるのが、凄いと言いますか何と言いますか。

 ひょっとすると今回の遊民爺さんは、あの遊民爺さん(北川さん)ではなく、二代目とか三代目なのかもしれません。
 それこそ、新宿を疾走していた謎の新聞配達員「新宿七色仮面」さんや「新宿タイガー」さんのような実在する都市伝説、という感じで受け継がれている、あるいは増殖しているのかもしれません。

 そもそも小沢さんが『遊民爺さん』を執筆なさるきっかけとなったのが、まさに実在した“遊民爺さん”だったそうですからね。作中の爺さんの風貌は、まさに小沢さんが目撃した妙チクリンなお年寄りそのものだったらしく。
 しかも作品発表後、小沢さんは新たな“遊民爺さん”の出現に関して読者から報告を受けたとのこと。
 現実世界ですら“遊民爺さん”が継承、あるいは増殖しているのなら、物語の中でもありえますね。

『遊民爺さん』シリーズは今までに三冊が出ています。
 小沢さんは、あとがきで、哲郎くんと遊民爺さんの物語は全七巻になることを明言なさっていました。
 それから随分と年月が経ち、三巻とも、とうに絶版の状況での新作スクリプト。この一人称が哲郎くんではなく、遊民爺さんも北川さんかどうか疑わしい。言ってみれば番外編あるいは外伝。これは残念でした。
 全七巻構想は頓挫してしまったのでしょうか? それはさすがに、ちょっと……ねぇ?